HAKUBAVALLEYの美しい自然環境と多様なコミュニティを持続可能な形で後世へ引き継ぐには、
SDGsの17ゴールに関連してどんな現状や課題があるのでしょうか?
HAKUBAVALLEYにおいて、最も深刻で解決に向けて緊急性を要する問題がSDGsの目標の1つにもなっている気候変動です。減り続ける雪、短くなるスノーシーズン、増える豪雨や強さを増す台風など深刻化する自然災害や異常気象。このまま何も対策をしないと、この地域の観光や暮らしに甚大な被害や経済的損失をもたらす確率が高くなることでしょう。
世界中の専門家、科学者が参加し、気候変動に関する最先端の研究を行うIPCC(気候変動に関する政府間パネル)から発表された第6次評価報告書では、「地球の平均気温が2030年前後に産業革命前に比べて1.5度上昇する」と報告されています。また、人間活動が温暖化をもたらしていることに「疑う余地はない」と断定しています。
温暖化による影響を最低限に抑え、自然豊かな観光地であり続けるためには、地域一丸となって持続可能なまちづくりに取り組む必要があります。
世界平均地上気温変化
(出典)IPCC AR5 WGⅠ SPM JPN
地球温暖化の仕組み
(出典)IPCC AR5 WGⅠ SPM JPN
IPCC第5次評価報告書によると2100年に世界平均地上気温は、温室効果ガスの排出量が最も少なく抑えられたRCP2.6シナリオで0.3~1.7℃の上昇、最も多いRCP8.5シナリオで最大4.8℃の上昇と予測されています
大北地域には大町と白馬、小谷に気象庁の観測地点があり、大町と白馬では1979年から気温や雨、雪など、小谷では1984年から雨と雪のデータが蓄積されています。これらのデータを使って大北地域における気候変動の実態をみてみましょう。
(気温)
地球温暖化は長野県内においても確認されています。大町と白馬における1979年から2020年までの年平均気温の気温上昇の割合は、それぞれ10年あたり0.24℃、0.20℃となっています。このペースで温暖化が進むと100年間で2~2.4℃気温が上昇してしまうスピードです。
また、近年では暑い日も増えていて、夏日(最高気温が25℃以上)や真夏日(最高気温が30℃以上)の日数が10日程度多くなっていると考えられます(注)。
1年間の中でも月によって気温上昇の割合は異なっています。白馬と大町では、3月、5月、7月、9月と10月に気温上昇量が大きく、10年あたり約0.3℃~0.4℃です。逆に気温上昇の割合が小さい月は、1月、4月と12月で、約0.5℃~1.5℃程度です。
白馬の日平均気温
白馬の夏日/真夏日
1年間の中でも月によって気温上昇の割合は異なっています。白馬と大町では、3月、5月、7月、9月と10月に気温上昇量が大きく、10年あたり約0.3℃〜0.4℃です。逆に気温上昇の割合が小さい月は、1月、4月と12月で、約0.5℃〜1.5℃程度です。
(雨)
気温が上昇すると大気中に含むことができる水蒸気量は増えるため、地球温暖化が進むと降水量は
増加するといわれています。しかし、降水量の変化は数カ所の観測データだけでは明確にならない
ことがあります。そのため大北地域の3地点における年降水量のデータからは増える(減る)
ような変化は確認できませんでした。ただし、無降水日(日降水量が1mm未満の日)は3地点と
も増えていることがわかります。このことは一度に降る雨の量が増えている可能性を示唆していま
す。
(雪)
一般的に、地球温暖化によって標高の低い場所では雪が雨にかわるため降雪量は減るといわれています。しかし、3地点の最深積雪(その冬にもっとも積もった雪の深さ)と年降雪量(一冬に降った雪の量の合計)に関して、統計学的に有意な変化はみられませんでした。長野県は標高が高いため減少傾向がやや見えにくいのかもしれません。しかし、月毎の降雪量をみてみると、11月と1月から4月は、地点によっては降雪量が減少しており、2月はすべての地点で共通して減少していました。
白馬無降水日
(雪)
一般的に、地球温暖化によって標高の低い場所では雪が雨にかわるため降雪量は減るといわれています。しかし、3地点の最深積雪(その冬にもっとも積もった雪の深さ)と年降雪量(一冬に降った雪の量の合計)をみても、減少するような変化はみられませんでした。長野県は標高が高いためそのような傾向がやや見えにくいのかもしれません。しかし、月毎に降雪量をみてみると、1月から4月と11月は、地点によっては降雪量が減少しているところがあり、2月はすべての地点で共通して減少していました。
白馬無降水日
降雪量
(注)気象庁の統計の取り方が変更になっているため、
統計的に増えたかどうかを判定することができずこのような表現となっています。
気温の上昇は、夏場の熱中症リスクの増大、冬には降雪量の減少と雪質の変化、春には雪融けや植
物の開花の早まり、秋には紅葉の遅れなどの影響をもたらします。また気温上昇による大雨の増加
は斜面崩壊や土石流の発生、河川の氾濫を生じ、その一方無降水の日の増加は干ばつの恐れにつな
がります。こうして気候変動は健康や観光、農業など暮らしや産業に大きく影響するだけでなく、
自然の生態系の変化や災害の発生にもつながります。
その一方で、気温の上昇はたとえば農作物の収量の増加や冬の暖房用エネルギーの減少にもつなが
る可能性があり、短期的にみれば良い影響も少なからずあります。こうした影響は今後数十年はと
まらないと予測されていることから、これらの影響による被害(利害)に対してうまく適応するこ
とが重要になってきます。
しかし、気温上昇がさらに続けば影響はますます大きくなり被害は甚大になることも考えられます。
そうならないためにも、CO2などの温室効果ガスの排出を、2050年までに正味ゼロ(ゼロカーボン)
にする必要が出ているのです。
八方パトロール隊長が感じる変化
“データを見ても肌感覚でも
雪は確実に減っていると感じます”
30年間、白馬八方尾根スキー場でパトロールとして働きながら雪を見続けてきた石原さんに、近年感じている変化を伺いました。
「積雪量は多い年もあれば少ない年もありますが、近年は確実に減ってきていますね。そして、ゲ レンデ下部では雪が消えるのが早くなっているため、スキー場をゴールデンウィークまで営業する のがギリギリになってきています。環境問題に対しては、白馬高校生など若い人たちの方が前向き だけど、大人も負けていられない。誰かがではきっとだめで、自分たちがやれることから変えてい かなきゃいけないと感じています」